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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)1157号 判決 1985年8月23日

主文

一、被告金英圭と同渡辺泰行こと金相七との間の、別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(一)及び(二)記載の各登記にかかる各賃貸借契約をいずれも解除する。

二、被告金英圭と同楊原義出こと楊萬東との間の、別紙物件目録(一)記載の土地、並びに別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(三)記載の各賃貸借契約を、いずれも解除する。

三、被告金英圭と同楊原義弘こと楊京旭との間の、別紙物件目録(一)記載の土地についての別紙登記目録(四)記載の始期付賃貸借契約、並びに別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(五)記載の各始期付賃貸借契約をいずれも解除する。

四、第一項の判決が確定することを条件として、被告渡辺泰行こと金相七は、原告に対して別紙物件目録(一)記載の土地、並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(一)記載の各賃借権設定仮登記、及び同目録(二)記載の賃借権仮登記移転登記の、各抹消登記手続をせよ。

五、第二項の判決が確定することを条件として、被告楊原義出こと楊萬東は、原告に対して、別紙物件目録(一)記載の土地、並びに別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(三)記載の各賃借権設定仮登記の、各抹消登記手続をせよ。

六、第三項の判決が確定することを条件として、被告楊原義弘こと楊京旭は、原告に対して、別紙物件目録(一)記載の土地についての別紙登記目録(四)記載の始期付賃借権設定仮登記、並びに別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物についての別紙登記目録(五)記載の各始期付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

七、第一項の判決が確定することを条件として、被告渡辺泰行こと金相七は、被告金英圭に対して、別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物を各明渡せ。

八、第二項の判決が確定することを条件として、被告楊原義出こと楊萬東は被告金英圭に対して、別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物を各明渡せ。

九、第三項の判決が確定することを条件として、被告楊原義弘こと楊京旭は被告金英圭に対して、別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物を各明渡せ。

一〇、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一、申立

1  原告

主文同旨。

2  被告斉藤英夫こと金英圭(以下、被告金英圭という。)

被告金英圭は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

3  被告渡辺泰行こと金相七(以下、被告金相七という。)、被告楊原義出こと楊萬東(以下、被告楊萬東という。)、被告楊原義弘こと楊京旭(以下、被告楊京旭という。)

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、主張

1  原告の請求原因

(一)  別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地という。)、並びに別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物(以下、本件建物という。)は被告金英圭の所有である。

(二)  被告金英圭は原告との間で、昭和五三年九月二六日、被告金英圭が原告に対し現在及び将来において負担すべき信用組合取引による一切の債務及び手形、小切手上の債務の履行を担保するため、本件土地・建物を共同担保として被担保債権極度額金一億円の共同根抵当権を設定する旨の根抵当権設定契約を締結し、昭和五三年九月二六日受付によつて、本件土地・建物に別紙登記目録(六)記載の根抵当権設定登記手続(以下、第一根抵当権という。)を完了した。

(三)  被告金英圭は原告との間で、昭和五四年一一月一九日には、被告金英圭が原告に対して負担する前項の債務を担保するため本件土地・建物を共同担保として被担保債権極度額金二〇〇〇万円の共同根抵当権を設定する旨の根抵当権設定契約を締結し、昭和五四年一一月一九日受付によつて、本件土地・建物に別紙登記目録(七)記載の根抵当権設定登記手続(以下、第二根抵当権という。)を完了した。

(四)  原告は、被告金英圭に対して、次の通り金員を貸し渡した。

(1) 貸付年月日 昭和五六年一〇月二四日

(2) 貸付金額 金九九〇〇万円

(3) 最終弁済期限 昭和六〇年一月一七日

(4) 返済方法 (イ)昭和五七年五月一七日より同年一二月末日迄毎月一七日に各金五〇万円

(ロ) 昭和五八年一月一七日より同年一二月末日迄毎月一七日に各金七〇万円

(ハ) 昭和五九年一月一七日より同年一二月末日迄毎月一七日に各金一〇〇万円

(ニ) 昭和六〇年一月一七日迄にその余の残金を支払う。

(5) 利率 年九パーセント

(6) 利息の支払方法 昭和五六年一〇月二四日を第一回とし、その後毎月一七日に一ケ月分を先払いとする。但し、一ケ月に満たないときは日割計算による。

(7) 損害金 年二五パーセント

(8) 期限の利益の喪失 一回でも元本あるいは利息の支払いを怠つた場合は一切の債務の期限の利益を失う。

(五)  ところが、被告金英圭は、昭和五六年一〇月二四日から昭和五七年三月一七日迄の利息金合計金三五三万九五八五円を支払つたのみで、貸付元本の支払をしないので、原告は、昭和五七年一〇月四日第(四)、(8)項の期限の利益喪失約款に基づき期限到来とみなし、被告金英圭の原告に対する普通預金債権金一〇六万五五九三円と第(四)、(2)項の貸付元本の同額の内金と相殺したが、同被告は残元本である金九七九三万四四〇七円を支払わない。

(六)  原告は被告金英圭との間で、手形の主債務者が期日に支払わなかつた時は手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに右金額及びこれに対する支払期日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払うとの約定の下に、次の通りの額面金額の各約束手形を、右各期日に割引いた。

支払期日 額面金額 割引日

(1)昭和五七年三月二九日 金一一五万円 昭和五六年一二月二九日

(2)昭和五七年三月一四日 金三四四万円 昭和五六年一二月一四日

(3)昭和五七年三月一九日 金二四〇万円 昭和五六年一二月一九日

(4)昭和五七年三月二四日 金二三八万円 昭和五六年一二月二四日

(5)昭和五七年四月五日 金一九五万円 昭和五七年一月五日

(6)昭和五七年四月九日 金一三七万円 昭和五七年一月九日

(7)昭和五七年四月一九日 金二二五万円 昭和五七年一月一九日

(8)昭和五七年四月三〇日 金二一五万円 昭和五七年一月三〇日

(9)昭和五七年五月九日 金二一八万円 昭和五七年二月九日

(10)昭和五七年五月一九日 金一七一万円 昭和五七年二月一九日

(11)昭和五七年五月三〇日 金二二八万円 昭和五七年三月一日

(12)昭和五七年六月四日 金一一八万円 昭和五七年三月四日

(13)昭和五七年六月九日 金二三三万円 昭和五七年三月九日

合計 金二六七七万円

(七)  前項の約束手形はいずれも支払期日に不渡りとなつたため、原告は、被告金英圭に対して、前項の各金員及びこれに対する各支払期日以降支払済みに至るまで年一四・六パーセントの損害金債権を有する。

(八)  そこで原告は、被告金英圭に対する第(五)項の貸付残元本金九七九三万四四〇七円及びこれに対する約定の年二五パーセントの割合による損害金並びに第(七)項の約束手形買戻債権合計金二六七七万円及び第(六)項の各金員に対する年一四・六パーセントの割合による損害金を回収するため、昭和五八年三月九日、本件土地・建物に対して、第一及び第二根抵当権にもとづき競売の申立をした。

(九)  ところが、本件土地・建物には、昭和五七年三月一六日付をもつて被告金英圭によつて訴外達城道夫(以下訴外達城という。)のために別紙登記目録(一)記載の賃借権設定仮登記(以下、第一登記という。)が経由され、更に右賃借権は右訴外達城によつて昭和五七年三月二三日付をもつて被告金相七のために、同目録(二)記載の賃借権仮登記移転登記(以下、第二登記という。)が経由され、また、被告金英圭によつて被告楊萬東のために、昭和五七年三月一六日付をもつて同目録(三)記載の賃借権設定仮登記(以下、第三登記という。)が経由され、更には被告金英圭によつて被告楊京旭のために、本件土地には昭和五七年四月七日付をもつて同目録(四)記載の始期付賃借権設定仮登記(以下、第四登記という。)が、本件建物には右同日付をもつて同目録(五)記載の始期付賃借権仮登記(以下、第五登記という。)が各経由されてしまつている。

(一〇)  本件土地・建物の交換価値は、もつとも有利に一括処分する場合でも、せいぜい合計金六三九二万七六〇〇円くらいのものである。

ところが、本件土地・建物には第一乃至第五登記にかかる賃借権が各付着しているため、本件土地・建物の交換価値は

同様に一括処分する場合で四七七五万三九一七円にしかならず、その担保価値が一六一七万三六八三円もの減少をきたしている。

すなわち、本件土地・建物に対する第一乃至第五登記の各賃借権の存在は、原告の第一及び第二根抵当権を著しく侵害するものである。

(一一)  また、被告金相七、同楊萬東及び同楊京旭は、本件建物に入居して本件土地・建物を占有し、もつて現実に原告の第一及び第二根抵当権を害する行為をなしている。

(一二)  よつて、原告は、

(1) 被告金英圭と同金相七との間の、本件土地・建物についての第一及び第二登記にかかる賃貸借契約の各解除を請求し、

(2) 被告金英圭と同楊萬東との間の本件土地及び本件建物についての第三登記にかかる賃貸借契約の各解除を請求し、

(3) 被告金英圭と同楊京旭との間の本件土地についての第四登記にかかる始期付賃貸借契約並びに本件建物についての第五登記にかかる始期付賃貸借契約の各解除を請求し、

(4) (1)の判決が確定することを条件として、原告は被告金相七に対して、第一及び第二根抵当権にもとづく妨害排除として、本件土地・建物についての第一及び第二登記の、各抹消登記手続並びに本件土地・建物を所有者である被告金英圭に明渡すことを各請求し、

(5) (2)の判決が確定することを条件として、原告は被告楊萬東に対して、第一及び第二根抵当権にもとづく妨害排除として、本件土地並びに本件建物についての第三登記の、各抹消登記手続並びに本件土地・建物を所有者である被告金英圭に明渡すことを各請求し、

(6) (3)の判決が確定することを条件として、原告は被告楊京旭に対して、第一及び第二根抵当権にもとづく妨害排除として、本件土地についての第四登記並びに本件建物についての第五登記の、各抹消登記手続並びに本件土地・建物を所有者である被告金英圭に明渡すことを各請求する。

2  請求原因事実に対する被告金相七、同楊萬東、同楊京旭の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)ないし(八)の各事実は不知。

(三)  同(九)の事実中、原告主張のとおりの各登記が経由されている事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同(一〇)の事実は否認する。

被告らの各登記は、いずれも正当な経済取引により設定ないし譲渡を受けた短期賃貸借に基づくものであり、短期賃貸借が認められる以上当然当該負担分だけ不動産価格の下落を招くことは必然であり、これをもつてただちに抵当権者を害するとは言えない。まして原告は、本件土地、建物の担保価値をはるかに超える貸付をなしているものであつて、賃借権の解除請求をなすまでもなく、貸付債権の全額回収ができないことは当然予想されていたもので、このような場合にまで抵当権者を害するものとは言えない。

(五)  同(一一)の事実中、被告金相七、同楊萬東、同楊京旭が本件建物に入居して本件土地建物を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(六)  同(一二)項は争う。

三、証拠関係(省略)

(名古屋地方裁判所)

別紙

物件目録

(一) 春日井市細木町二丁目一四五番

一、宅地 六六〇・三〇平方メートル

(二) 春日井市細木町二丁目一四五番地、一六六番地一、一六六番地二

一棟の建物の表示

一、鉄骨造スレート葺二階建

床面積 一階 六一二・七〇平方メートル

二階 四六・三一平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 細木二丁目一四五番の三

一、鉄骨造スレート葺二階建工場・事務所

床面積 一階 三二三・四五平方メートル

二階 四五・〇四平方メートル

(三) 春日井市細木町二丁目一四五番地

一棟の建物の表示

一、木造瓦亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 一六〇・三七平方メートル

二階 四七・五二平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 細木町二丁目一四五番の六

一、木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 一三八・四二平方メートル

二階 四七・五二平方メートル

登記目録

(一) 賃借権設定仮登記

名古屋法務局春日井出張所

昭和五七年三月一六日受付第七六一〇号

原因 昭和五七年二月一五日設定

借賃 別紙物件目録(一)については一ケ月金七、〇〇〇円

別紙物件目録(二)及び(三)については一ケ月金九、〇〇〇円

支払期 毎月末日

存続期間 三年間

特約 譲渡、転貸ができる。

権利者 名古屋市中村区千成通六丁目一四番地

達城道夫

但し、別紙物件目録(一)について 乙区二三番

別紙物件目録(二)について 乙区八番

別紙物件目録(三)について 乙区六番

(二) 賃借権仮登記移転

同法務局同出張所

昭和五七年三月二三日受付第八三一九号

原因 昭和五七年三月二〇日売買

権利者 名古屋市熱田区一番町一九番二六号

渡辺泰行

但し、別紙物件目録(一)について 乙区二三番付記一号

別紙物件目録(二)について 乙区八番付記一号

別紙物件目録(三)について 乙区六番付記一号

(三) 賃借権設定仮登記

同法務局同出張所

昭和五七年三月一六日受付第七六一五号

原因 昭和五七年三月一二日設定

借賃 一ケ月金一〇、〇〇〇円

支払期 毎月末日

存続期間 別紙物件目録(一)については土地・各建物につき昭和五七年三月一二日から満五年間

別紙物件目録(二)及び(三)については昭和五七年三月一二日から満三年間

特約 譲渡、転貸ができる。

権利者 名古屋市西区江向町三丁目七六番地

楊原義出

但し、別紙物件目録(一)について 乙区二四番

別紙物件目録(二)について 乙区九番、九番付記一号

別紙物件目録(三)について 乙区七番

(四) 始期付賃借権設定仮登記

同法務局同出張所

昭和五七年四月七日受付第一〇三七三号

原因 昭和五七年四月六日設定(始期昭和六二年三月一二日)

借賃 一ケ月金一〇、〇〇〇円

支払期 毎月末日

存続期間 五年

特約 譲渡、転貸ができる。

権利者 名古屋市西区江向町三丁目七六番地

楊京旭

但し、別紙物件目録(一)の乙区二五番

(五) 始期付賃借権設定仮登記

同法務局同出張所

昭和五七年四月七日受付第一〇三七二号

原因 昭和五七年四月六日設定(始期昭和六〇年三月一二日)

借賃 一ケ月金一〇、〇〇〇円

支払期 毎月末日

存続期間 三年間

特約 譲渡、転貸することができる。

権利者 名古屋市西区江向町三丁目七六番地

楊京旭

但し、別紙物件目録(二)について 乙区一〇番

別紙物件目録(三)について 乙区八番

(六) 根抵当権設定登記

同法務局同出張所

昭和五三年九月二六日受付第二四八四〇号

原因 昭和五三年九月二六日設定

極度額 金一億円

債権の範囲 信用組合取引、手形債権、小切手債権

債務者 春日井市細木町二丁目一四五番地

金英圭

根抵当権者 名古屋市中村区則武一丁目五番一号

信用組合愛知商銀(取扱店 今池支店)

共同担保目録 か第五七二号

但し、別紙物件目録(一)について 乙区一七番、一七番付記一号

別紙物件目録(二)について 乙区一番、一番付記一号

別紙物件目録(三)について 乙区一番

(七) 根抵当権設定登記

同法務局同出張所

昭和五四年一一月一九日受付第三一一九〇号

原因 昭和五四年一一月一九日設定

極度額 金二千万円

債権の範囲 信用組合取引、手形債権、小切手債権

債務者 春日井市細木町二丁目一四五番地

斉藤英夫

根抵当権者 名古屋市中村区則武一丁目五番一号

信用組合愛知商銀(取扱店今池支店)

共同担保目録 き第五八五号

但し、別紙物件目録(一)について 乙区一八番、一八番付記一号

別紙物件目録(二)について 乙区三番、三番付記一号

別紙物件目録(三)について 乙区二番

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